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文/原田泰治 ふるさと心の風景 第3集 冬の風景 切手帳より |
I すげぼうし 新潟県中魚沼(なかうおぬま)郡津南(つなん)町 昭和59年(1984年) 冬。どの家も雪にすっぽりうまる。 町から少し離れた集落、新潟県の外丸(とまる)本村に一軒の日常雑貨品を売るお店があった。 降り積もる雪は軒下にまで達し、ウインドーの商品も見えない。おばあさんが一人、店から出てきた。背中のてご(・・)には買ったばかりの品物が入っていた。身支度を整えると、頭からすげぼうしをかぶり、降りしきる雪の中に消えていった。 |
H 急斜面の村 徳島県三好(みよし)市【旧・三好(みよし)郡東祖谷山(ひがしいややま)村】 昭和58年(1983年) 東祖谷山村は、斜面を切り開いた土地にへばりつくような集落が多い。家は山すそから高い所へのぼり、今日の山村風景になった。祖谷川をはさんだ急斜面に石垣を積み、その上に建てられた家がほとんどだが、大きな土砂崩れはない。冬の夕暮れは早い。あっという間に、祖谷の山々を夜のとばりが包み、雄大な影絵になった。夜空に輝く星と斜面の家々の明かりを見上げ、改めてその高さに驚いた。 |
G 石垣集落 愛媛県南宇和(みなみうわ)郡愛南町(あいなんちょう)【旧・西海町(にしうみちょう)】 昭和58年(1983年) 海岸からすぐ山になる急斜面に、石を積み上げた集落・愛媛県西海町外泊を訪ねた。 石垣の塀は、海岸より吹き上げる潮風から家を守ってくれている。海に面した炊事場の窓を「海賊窓」という。そこから漁を終えて帰ってくる船を見て、女衆が急いで港にかけつけたのであろう。 日当たりのいいところで、石垣を背に、留守をあずかる老人たちが、日なたぼっこをしながら世間話をしていた。 |
F 顔なじみ 福島県会津若松(あいづわかまつ)市 平成4年(1992年) 冬にすっぽりつつみこまれてしまった街に、野菜をリヤカーに積めるだけ積んだ行商のおばさんがやってきた。長いお付き合いなのだろう、バス停近くに一人また一人、顔なじみの人々が集まってきた。おばさんをかこみ、世間話や笑い声がとびかかう。春が来たようなにぎやかさだが、鉛色の空から雪が舞い降りてきた。会津の冬はまだまだつづく。 |
E 雪国の暮らし 岩手県和賀(わが)郡西和賀町(にしわがまち) 平成20年(2008年) 冬の空に太陽がぼんやりと顔を出す。 雪国独特の空の下、一面に白い世界が広がる。不思議なことに騒音は消え静寂のときが流れる。きっと雪があらゆる音をさえぎってしまうのだろう。 軒下には、この地方でよく見かける「凍みでこ」が干されている。大根を適当の大きさに切り寒気にさらす。おそらく煮物などにして食べる、冬の暮らしから生まれた、生活の知恵が生きづいている。 |
ふるさと心の風景 第3集 冬の風景 Hometowns-Scenes in My Heart 3, Winter (2008.11.04 issued) |
No.14 - 2008 (3/3) |